Japan Society for Madagascar Studies / Fikambanana Japoney ho an'ny Fikarohana momba an'i Madagasikara
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「マダガスカル産シダ植物の分子植物地理学」-DNA情報を用いてマダガスカルの野生植物の起源を探る-

村上哲明 (京都大学大学院理学研究科)

 マダガスカルは、ご存じのようにアフリカ大陸の東方約400kmに位置する巨大な島である。2億年前には、ゴンドワナ大陸の一部であったが、地殻変動によって分裂し、約 6,500万年前から現在まで孤立した島として存在してきた。その結果、マダガスカルの動植物は他の大陸とは独自の進化を遂げ、島のおよそ 2/3 の生物が固有種と言われている。 しかし、これらの多くは乾燥地に生える種子植物についてである。マダガスカルには熱帯雨林も発達しており、こちらを中心に分布するシダ植物については、最近までどのような種が分布しているのかさえよくわかっておらず、ましてその地理的については科学的に考察されてこなかった。昨年、Moran & Smith (2001) は、ミズーリ植物園がマダガスカル植物誌プロジェクトで集めた多数のシダ植物の押し葉標本をもとにして中南米の熱帯地域とのシダ植物相の詳しい比較をして、その結果にもとづく植物地理学的考察を発表した。そして、中南米とマダガスカルの間で繰り返し長距離散布が起こったと彼らは結論している。しかし、彼らは外部形態だけを見て同種あるいは近縁種と判断して、それらがマダガスカルと中南米の間で多数共有されていることから上記の結論を導き出している。熱帯アジアのシダ植物相との比較を全く行っていないので、マダガスカルのシダ植物相が中南米と東南アジアのいずれとより強い関係があるかを彼らは議論することはできない。さらにシダ植物は花も咲かず、形態がごく単純なので、形態だけで同種と判断されても、実は全く異なる生物学的実体であることが多々あることが我々の最近のDNA情報を活用した分類学的研究で明らかになってきている。より厳密な植物地理学的考察を行うためには、中南米、マダガスカル、熱帯アジアの全ての地域に分布しているシダ植物の近縁種群についてDNAレベルの比較解析を行う必要がある。

 我々は、科学研究費補助金(海外学術調査、代表者 西田治文)により98年と99年にマダガスカルでシダ植物の調査・採集をする機会を得た。そして、日本にもち帰ったシダ植物のサンプルを分子系統学的に解析し、他の地域のものとも比較することによって、植物地理学的な考察を試みた。今回の発表では、チャセンシダ科のホウビシダ類およびシマオオタニワタリ類について、現在までに得られている結果をお話ししたい。特にホウビシダ類は、世界中の熱帯地域に分布しているシダ植物群で、上記の条件に合致する。

 マダガスカルのホウビシダ類については、調査の結果、マレーホウビシダ、ウスイロホウビシダ、ラハオシダ、ミドリラハオシダの4種が見出された。これらは、いずれも東南アジアを中心に広く分布している種である。分子系統学的に解析した結果でも、たとえばマダガスカルのマレーホウビシダは、ジャワ島やロンボク島(インドネシア)やボルネオ島、マレー半島(マレーシア、タイ南部)のマレーホウビシダと遺伝的にも、ほとんど同一あるいはごく近縁であることが示された。一般的には固有率の高いマダガスカルであるが、少なくともホウビシダ類に関しては東南アジアのものと非常に密接な関係が示された。

 シマオオタニワタリ類に関しては、マダガスカルで2種(ともに新種として記載が可能なもの)を認識した。他の地域のものを含めて分子系統学的に解析してみると、やはりマレーシアやインドシナ産のものと非常に近縁であることが分かった。この群でも、マダガスカルと熱帯アジアとの密接なつながりが示唆されている。

 我々は、これらの結論の一般性を調べるために、01年から村上を代表者とする科研費のサポートを受け、より広い範囲の植物群における分子植物地理学的解析を始めている。

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