Japan Society for Madagascar Studies / Fikambanana Japoney ho an'ny Fikarohana momba an'i Madagasikara
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「マダガスカルの送粉共生系」

加藤真(京都大学大学院人間・環境学研究科)

ゴンドワナ大陸に由来するマダガスカル島は、固有科12科、固有属350属、固有種約10000種を誇る、きわめて豊かな被子植物相を擁している。アフリカ大陸からの長きわたる孤立は、独自の植物相の発達をもたらしたが、その背景にある送粉者群集について研究は多くない。マダガスカルを代表する送粉共生として、ダーウィンによって予見されたことで名高い、世界最長の舌を持つキサントパンスズメガによって送粉される、世界最長の距を持つラン(Angraecum属)がある。これは、植物と送粉者の顕著な軍拡競走(攻撃と防衛の技術がお互い加速しあって進むこと、ここでは吸蜜をめぐる口吻と距の長さ)の例としても名高い。また、レムールによって送粉されるタビビトノキ、オオコウモリやレムール、スズメガなどによって送粉されるバオバブ類なども、マダガスカル独自の送粉共生の例である。

植物のある系統群を送粉共生から調べた研究として、ノウゼンカズラ科の送粉シンドロームの研究がある。ノウゼンカズラ科の植物の花は大型で筒状であるが、鳥媒、レムール媒、大型ハナバチ媒、中型ハナバチ媒、甲虫媒などの送粉様式があり、それは花の形態や花がつく位置などと対応している。

マダガスカルにおいて送粉者として最も重要なものはハナバチ類だと考えられる。マダガスカルのハナバチ類は、6科12亜科60属244種が記録され(Pauly, 2001)、そのうち真社会性のものは、マダガスカルミツバチと7種のハリナシバチである。コハナバチかの種数は72種に達し、その中でも長舌のThrincostoma属の適応放散が特に特徴的である。マダガスカルを最も特徴づけるハナバチは、大型で長舌で俊敏なPachymelus属のハナバチで、彼らはマダガスカルの植物の花の進化にきわめて重要な役割を果たしてきたと考えられる。

マダガスカルはきわめて多様な植生を持つが、送粉者群集が調査された植生は、南部の乾燥地に発達した棘葉樹林のみで、そこで最も卓越するのはマダガスカルミツバチである。それ以外の植生では、送粉者群集が十分調査されたことはない。そこで、私たちはマダガスカルの多様な植生、特に熱帯雨林における送粉者群集の調査を開始した。調査はまだ十分ではないが、マダガスカルならではの興味深い送粉様式も見つかっている。

多様な送粉共生の中で、植物と送粉者が一対一で相互に強く依存しあっている関係は特に絶対送粉共生と呼ばれ、イチジクとイチジクコバチ、ユッカとユッカガの間で古くから知られていた。イチジクコバチもユッカガも、雌成虫がその寄主植物の花を訪れて雌ずいに授粉をしたのち、子房に産卵し、孵化した幼虫はその胚珠または種子を食べて成長する。これらの絶対送粉共生系は、植物と送粉者それぞれが著しい多様化を起こした系でもあり、植物と送粉者との共進化や共種分化について多くの研究が行なわれてきた。

最近、コミカンソウ科(Phyllanthaceae、トウダイグサ科から分離された)のカンコノキ属で種子寄生性のホソガによるこのような絶対送粉共生が発見され(Kato et al., 2003)、相乗多様化をもたらした第三の共生系として注目されている。さらに、カンノコキ属の外群にあたるオオシマコバンノキ属においても(Kawakita and Kato, 2004b)、またコミカンソウ属Gomphidium亜属においても(Kawakita and Kato, 2004a)、絶対送粉共生が発見され、コミカンソウ科の絶対送粉共生が系統的にも地理的にも著しい広がりを見せていることが明らかになりつつある。

マダガスカルではコミカンソウ科が多様化しており、コミカンソウ属58種、カンコノキ属7種などが知られていた。マダガスカルのカンコノキ属はのちにコミカンソウ属に移されたが、これらのマダガスカル産コミカンソウ科植物の中に絶対送粉共生が見られるかどうかは、絶対送粉共生の起源を知る上で重要な鍵となる。そこで、マダガスカルのさまざまなコミカンソウ科植物について、送粉様式と種子食者による加害の有無を調査した。その結果、数種のPhyllanthus属植物で、絶対送粉共生が確認され、コミカンソウ科植物の絶対送粉共生はアジアからマダガスカルへの広がりをみせていることが明らかになった。

引用文献
Kato, M., A. Takimura & A. Kawakita. 2003. An obligate pollination mutualism and reciprocal diversification in the tree genus Glochidion (Euphorbiaceae). Proceedings of National Academy of Sciences of the United States of America 100: 5264-5267.
Kawakita A. and M. Kato. 2004a. Evolution of obligate pollination mutualism in new Caledonian Phyllanthus (Euphorbiaceae). American Journal of Botany 91: 410-415.
Kawakita A. and M. Kato. 2004b. Obligate pollination mutualism in Breynia (Phyllanthaceae): further documentation of pollination mutualism involving Epicephala moths (Gracillariidae). American Journal of Botany 91: 1319-1325.
Pauly, A., R. W. Brooks, L. A. Nilsson, Y. A. Pesenko, C. D. Eardley, M. Terzo, T. Griswold, M. Schwarz, S. Patiny, J. Munziner, Y. Barbier. 2001. Hymenoptera Apoidea de Madagascar et des Iles Voisines. Musee royal de l'Afrique centrale, Tervuren, Belgium.

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