Japan Society for Madagascar Studies / Fikambanana Japoney ho an'ny Fikarohana momba an'i Madagasikara
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シンポジウム マダガスカル発祥のSRI農法 はじめに

深澤秀夫 (東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)


今回のシンポジウムを企画した背景について、簡単に説明させて頂きます。

私は、1983年から1985年までのおよそ1年3ヵ月の間、マダガスカル北西部の一村落に住み込み親族や村落組織や儀礼などについての臨地調査を行いました。その後も現在に至るまで、同村における調査を継続しています。私が最初に調査を行った当時、その村では国際稲研究所(International Rice Research Institute 略称IRRI)によって1966年に作出された高収穫品種のIR-8号が湛水稲作+移植法と共に導入され、全世帯の3割くらいがこれを受容していました。事前の調査対象ではありませんでしたが、生業をめぐる調査を進めた結果として、いわゆる「緑の革命」の導入およびその後の展開と帰結を村落という現場で目撃することになり、これまでに数本の論文として発表してきしました(参考文献欄参照)。

そのため、私自身は農学や育種学などの専門家ではないにもかかわらず、稲と稲作をめぐる「技術移転」に強い関心を持ち続けてきました。そのような中で、SRI(The System of Rice Intensification 稲集約栽培法)と呼ばれる新しい稲作栽培法があり、調査地域における1.5t/ha~1.8t/haの単収と比べその5倍から6倍という驚くべき単収を実現しているらしいことを、マダガスカル内外において21世紀に入った頃から知りました。その一方、SRI農法の成立からほぼ30年を経過しているにもかかわらず、私が調査している村落には条植え以外のSRI関連技術が現在まで導入されていません。「緑の革命」によって生み出された品種が十数年で海外から村にまで到達していたことと比べ、他ならぬマダガスカルで生み出された稲作法の普及速度の遅さにいささか不思議な気持ちを抱いてきました。また、辻本泰弘さんによる講演1の記事「SRI農法の成立とマダガスカルの在来稲作」にも書かれているように、SRI農法の特長である高い単収をめぐっては、その数値について作物学などの専門家から疑問が投げかけられ論争が生じていることも知りました。さらに、最近ではSRI農法を基にマダガスカル農業省が推奨するSRA(Systeme de Riziculture Amelioree 改良稲作法)も実施されており、この技術パッケージのどの部分がどのような科学的単収増加効果を生みまた核心的であるのか、あるいはパッケージ内の個別技術毎の普及は可能であるのか否か、農学の専門家や実際にSRI農法を調査されている方々や実践・普及に携わっている方々に、直接お話をうかがってみたい気持ちが高まりました。

以上のような背景を踏まえて、2014年1月のマダガスカル研究懇談会世話役会の席上、私から2015年3月の第19回懇談会における本シンポジウムの企画を提案し、これを承認して頂きました。本シンポジウムにおける各演題の演者については、2014年9月に私がマダガスカル現地に渡航した際、国際協力機構(JICA)のプロジェクト事業2009年~2015年「中央高地コメ生産性向上プロジェクト(Projet d’Amelioration de la Productivite Rizicole sur les Hautes Terres Centrales 略称PAPRiz)」に従事されていた派遣専門家の椛木信幸さんと羽原隆造さんのお二人にお話をうかがい、適任者として、辻本泰弘さん、横山?樹さん、中村公隆さんの三人をご紹介頂きました。この場をお借りし、貴重なお時間を割いて丁寧に私からの質問にお答え下さった椛木さんおよび羽原さんに、あらためて深く御礼申し上げます。

農村生活における現金の需要の高まり、人口の増加と一人当たりが用益できる水田面積の狭小化、在来稲作技術による増収の困難化などにより、マダガスカルの農村に生活する人びとの間におけるコメの増産や単収の増加に対する欲求は増しています。そのため私が調査を行ってきた村では、池沼を耕起して水田化したり、水田と接する法面を掘り崩して垂直に壁面を整地し耕地面積を広げたり、あるいは不安定な3月の降雨による影響を避けるため早生種を競って採用したり、さらには一度放棄した茎の長い在来品種を探し求め水深の深い水田に再導入するなどの行動が、「緑の革命」の実践以降に生じています。その一方、調査地周辺では化学肥料の使用はおろか有機肥料作りもいまだにほとんど行われておらず、「緑の革命」の高収穫品種でさえ種子の更新もなされていないのが現状です。

本シンポジウムの開催および報告が、マダガスカルの農民の人たちが自分たちの手で実践することのできる稲増産の技術ないし技術パッケージに対する出席者や読者にとっての関心の入口となることがあれば、幸いです。

なお、中村公隆さんの講演3「PAPRiz農法から見たSRI農法の特長」の報告記事につきましては、中村さんのやむを得ないご事情により、次の34号に掲載予定です。



参考文献

深澤秀夫 1989年「稲作を生きる、稲と稲作の実践と戦略-北部マダガスカルTsimihety族に於ける稲作と共同労働-」『東南アジア研究』26巻4号 pp.394-416.
深澤秀夫 2007年「マダガスカル北西部における「生存」と稲作 小商品化した生活の実践」小川了編『資源人類学04 躍動する小生産物』弘文堂 pp.183-242.

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